鷺沢萠『海の鳥・空の魚』1990年

女性作家の作品はどうしても女性視点で書かれること(作家が意識しているか否かに関わらず)が気になってしまって――女性らしい感性のようなものを押しつけられるような感じっていうのかなぁ、長い間好きになれませんでした。そんな私が、好きだと思う女性作家。その短編集です。「海の鳥・空の魚」というタイトルは、私としては気取っていない感じがするんですが、旧約聖書の一文にちなんでいるようです。中でも「明るい雨空」と「月の砂漠」は、自分の中にあって自分を形づくっている、強いもの、ぶれないものを感じさせてくれます。「天高く」は女性視点の恋愛ものだけれど、蜻蛉日記の「ゆする坏」の話を彷彿とさせるところが好き。平安時代では「ゆする坏に埃が積もるほどの間」が、現代では「チーズにカビが生えてしまう間」となるわけです。